東京地方裁判所 平成3年(特わ)1857号 判決 1992年3月27日
本店所在地
東京都文京区白山四丁目三三番二二号 上新ハイツ内
菱輪建興株式会社
(右代表者代表取締役 岩﨑正)
本籍
北海道室蘭市御前水町三丁目七〇番地
住居
東京都板橋区大山金井町五四番一五-三〇五号
会社役員
岩崎正
昭和一四年八月一二日生
右の者らに対する各法人税法違反被告事件について、当裁判所は、検察官北原一夫出席の上審理し、次のとおり判決する。
主文
被告人菱輪建興株式会社を罰金七〇〇〇万円に、被告人岩﨑正を懲役二年にそれぞれ処する。
被告人岩﨑正に対し、この裁判確定の日から四年間その刑の執行を猶予する。
理由
(罪となるべき事実)
被告人菱輪建興株式会社(以下、被告会社という)は、東京都文京区白山四丁目三三番二二号上新ハイツ内(昭和六二年三月二六日以前は、同都豊島区南大塚二丁目四〇番一号大塚中央ビル内)に本店を置き、不動産の売買及び仲介等を目的とする資本金一〇〇〇万円(平成二年七月七日以前は四〇〇万円、同年六月一八日以前は一〇〇万円)の株式会社であり、被告人岩﨑正(以下、被告人という)は、被告会社の代表取締役としてその業務全般を統括している者であるが、被告人は、被告会社の業務に関し、法人税を免れようと企て、被告会社の行った不動産の購入及び売却を他の法人が行ったかのように仮装して、仕入及び売上のそれぞれ一部を除外し、架空の支払手数料を計上するなどの方法により所得を秘匿した上、昭和六一年四月一日から同六二年三月三一日までの事業年度における被告会社の実際所得金額が四億四〇三二万一九一八円(別紙1修正損益計算書参照)、課税土地譲渡利益金額が四億八一万円であったのにかかわらず、昭和六二年五月三〇日、被告会社の前本店所在地を所轄する同都豊島区西池袋三丁目三三番二二号所在の豊島税務署において、所轄小石川税務署長に対し、その所得金額が四六二万一四二九円、課税土地譲渡利益金額が一〇〇一万七〇〇〇円で、これに対する法人税額が三四三万五九〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書(平成四年押第五二号の1)を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、もって不正の行為により、被告会社の右事業年度における正規の法人税額二億六九八三万六九〇〇円と右申告税額との差額二億六六四〇万一〇〇〇円(別紙2脱税額計算書参照)を免れたものである。
(証拠の標目)
一 被告人の当公判廷における供述
一 被告人の検察官に対する供述調書
一 高橋貞男、関口正行(謄本)、吉田雅一、守島久雄こと金鐘壽、高橋建規、小元廣吾、大澤繁、前田政弘の検察官に対する各供述調書
一 収税官吏作成の物件売買収入調書、仲介手数料収入調書、受取利息調査書、物件購入費調査書、業者支払手数料調査書、車両関係費調査書、謝礼金調査書、交際接待費調査書、交際費の損金不算入額調査書、事務費調査書、水道光熱費調査書、旅行交通費調査書、リース料調査書、保険料調査書、修繕費調査書、改築費調査書、減価償却費調査書、除却損調査書、支払利息調査書、土地の譲渡等に係る譲渡利益金額調査書
一 検察事務官作成の捜査報告書三通(それぞれ謝礼金の金額、土地の譲渡等に係る譲渡利益金額、豊島税務署の所在地に関するもの)
一 登記官作成の商業登記簿謄本
一 押収してある被告会社の昭和六二年三月期の法人税確定申告書一袋(平成四年押第五二号の1)
(法令の適用)
一 罰条 被告会社
法人税法一六四条一項、一五九条一項、二項(情状による)
被告人同法一五九条一項
二 刑種の選択 被告人
懲役刑選択
三 刑の執行猶予 被告人
刑法二五条一項
(量刑の理由)
本件は、不動産の売買及び仲介等を業とする被告会社の代表者である被告人が、被告会社の業務に関し、二億六六四〇万円余りの法人税を免れたという事案であるところ、脱税額は多額であり、脱税率は、九八・七パーセントという極めて高率に及ぶ上、その手段、方法は(1)被告会社が行った不動産の購入及び売却を、他のいわゆるダミー会社二社が順次行ったかのように仮装して、仕入及び売上のそれぞれ一部を除外したもの、(2)仲介手数料収入を得た際、ダミー会社に架空領収証を発行させて、その一部を除外したもの、(3)架空領収証を用いて、架空の支払手数料を計上したもの等のほか、申告期限が近づいたころ、さらにこれらの工作を前提として被告会社の経理担当者に決算を組ませた際、なお三〇〇〇万円を超える利益が出てしまったことから、利益が四〇〇万円程度の決算書を作るように指示し、利益調整を行わせたものであって、計画的な脱税であり、その犯意は強固であったと認められる。弁護人は、(1)につき、被告人は知人の奥田由造から合法的な節税の方法であると説明されるなどして、その旨信用し、(3)についても、節税対策と考えていたので、本件犯行に際し違法性の意識がなかったか、極めて希薄であり、脱税の未必的故意しかなかった旨主張し、被告人も公判廷において、右主張に沿う供述をする。しかし、(1)、(3)の手段、方法が、それ自体で虚偽の金銭等の流れを作出し税務当局を欺いて被告会社の所得を隠し、本来支払うべき法人税を免れるための、脱税に向けた行為であることは、常識から容易に分かることであり、また、証人奥田も被告人に対し、(1)が合法的な手段であると説明したとは証言していないのであって、被告人の右公判廷供述は信用できず、弁護人の主張は理由がない。さらに、弁護人は、株式会社遙虹ランドから小切手で受領した仲介手数料五〇〇万円について、過失により計上漏れとなった旨主張し、被告人も公判廷において右主張に沿う供述をするが、被告人は、検察官から資料を示されて取調べを受けた際には、何らその旨の供述をしていなかったのであり、その理由の合理的説明がない上、右小切手は(2)で除外した仲介手数料の一部を入金した借名預金口座に入金されていることや、(1)、(3)が合法的な節税の手段だと信じていた旨の前記供述とともに公判廷でなされた供述であることからしても、過失による計上漏れだとする供述は信用できず、弁護人の右主張は理由がない。次に、脱税の動機は、土地ブームによりかつてない莫大な利益が見込まれ、まともに申告すると、せっかく得た所得の大半を税金に持っていかれるので、それは惜しいという気持ちと、ゴルフ場開発等の投資資金や遊興費などに自由に使える金がほしいとの気持ちからであり、酌むべき点はない。そうすると、被告人の犯情は悪く、その刑事責任は重いというべきである。
しかし、一方、被告会社は修正申告の上、国税については、その本税を完納し、附帯税もその一部を納付し、地方税については、本税の大半を納付していること、残額も、ゴルフ場開発業務の仕事を完成した際、納付する旨誓約し、その見込みがないわけではないこと、前科としては、罰金が一件あるのみであること、反省の情を示していること等の酌むべき事情もある。
そこで、これらの諸事情を考慮し、主文のとおり、量定した。
よって、主文のとおり判決する。
(裁判官 西田眞基)
別紙1
修正損益計算書
<省略>
別紙2
税額計算書
<省略>